Vol.7 2006.1.20 - 2006.2.12
「I WASH U」 :新津亜土華
冬の朝。夏の夜。秋の夕暮れ。うららかな春の昼下がり。思い出は意図せず突然蘇る。記憶は完全に消え去ることはなく、身体の奥でその時の感情と共に眠るように蓄積していて、感覚はいたずらにそれを目覚めさせる。
ではメディアからの記憶はどうか?この疑問から作品『 I WASH U 』は制作された。生まれてから死ぬまで、地球に貼り付き時間に背中を押され続ける私たちは、想像の力によって現実の制約からふわりと抜け出し、自由に飛び回ろうとする欲望を抱えている。そこへ次々と「メディアテクノロジー」という穴が開き、世界のすべてが映り込んだので、私たちはそれを飽くことなくひたすら覗きつづけ、遂に現実と仮想の境は曖昧になってしまった。刺激的なメディアからの情報は、受け取る者の妄想と感情を巻き込んで身体にたまっていく。まるで堆積する泥のように。
私は常に手とメディアを意識した作品を制作してきた。身体の中で、感情と・他者と・外界と・メディアとが、最もつながっていると感じるからだ。メディアへの欲望と妄想と感情のミックスした記憶の泥が最後には「手」でせき止められている、と。
今作『 I WASH U 』では、実際に水に手を浸し洗うという行為によって映像が展開する。記憶を洗い去ろうと努力してもいい。もう一度そのことを思い返してもいい。ただ唯一、断片化する記憶を美しい思い出に変えることができるのは、あなたとの出会いだと信じている。
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