アートのある団地 - 深澤孝史「とくいの銀行」, アートのある団地 - いこいーの+Tappino
終了しました 2019/02/06
「とくいの銀行」は、お金のかわりに人の「とくい(得意/特異なこと)」を運用する銀行です。取手井野団地にあるコミュニティカフェ「いこいーの+Tappino」に本店ATMがあり、いつでも自分の「とくい」を預ける=「ちょとく」することができます。自分の「とくい」を預けると、誰かの「とくい」を引き出すことができます。
2011年秋の開業からこれまでに、500件以上の「とくい」をお預かりしました。今回は、取手に住んだり通勤・通学したりしている外国出身のみなさんの「とくい」を集めたいと思い、3日間の営業活動を行いました。
1月19日(土)営業活動初日
ひとり目の営業先は、来日して20年のチョクトさん。「ちょくと」というお名前が思いがけず「ちょとく」のアナグラムになっていて、妙に親近感を感じます。チョクトさんは、かつて取手にあった「日本モンゴル文化交流センター」の所長さんをしていたそうです。今でも、5月に利根川の河川敷で行われる鯉のぼりのお祭りに、毎年参加しているとのこと。お祭りでは、ゲルを立てたり、モンゴル料理をふるまったり、モンゴル相撲を披露したり、みんなにモンゴルの民族衣装を着せてあげたりして、モンゴルの文化を紹介しているそうです。とくいの銀行にも「ゲルを立てれます」という「とくい」を預けてくれました。ゲルは、慣れた人が3人いれば1時間で立てることができるそうです。たたんだ状態のゲルは、無理すれば軽トラックに積めるくらいコンパクトなのだそうです。ゲルすごい。井野団地の芝生の広場にゲルを立ててキャンプできたらたのしそうですね…なかなか妄想がふくらみます。
1月20日(日)営業活動二日目
朝から関東鉄道常総線にゆられて、取手の西端・戸頭にある公民館へ。ここでほぼ毎週開かれている日本語教室の学習者さんたちに「ちょとく」を預けてもらいに行きました。
戸頭に到着!公民館は、戸頭団地の中にあります。寒いけどいい天気。今回おじゃました日本語教室を開いているのは「取手市国際交流協会」という団体です。30年前に結成され、取手の国際交流のためのさまざまな活動をしているそうです。ここ2~3年、取手には技能実習生が増えているので(茨城県は2017年の技能実習生の受け入れ人数が、愛知県に次いで全国2番目に多いそうです)、日本語教室の部屋も増やしたそうです。
教室長の三上さんが、学習者のみなさんに銀行のことを紹介してくれました。
最初に話を聞いたのは、ネパール出身の日本語教師・タパさん。
タパさんは、ネパールで日本人向け観光ガイドをしていましたが、政治状況が変わって、ネパールに行く日本人観光客が減ったので、日本語の教師になったそうです。しばらくして、もっと日本語を勉強しようと思って日本の大学院に留学。卒業後、取手の日本語学校から声がかかり、教師として取手に来たそうです。タパさんは「ネパールのこどものあそび」と「ネパール語と日本語の格助詞の比較」を預けてくれました。ネパール語と日本語のちがいについて知りたくなったら、引き出してみてください。
もう一人のちょとく者は、ベトナム出身の学習者、バンさん。
バンさんは、ベトナムの大学でデザインと縫製を学んだあと、2018年3月に日本に来たそうです。ストレートに「ファッションデザイン」をちょとくしてくれました。お名前の「バン」は「曇り」という意味なので、ニックネームは「くもりちゃん」なのだそうです。ベトナム語で「ありがとう」は「カムオン」というと教えてくれました。また、今回の営業活動(リサーチ)のお願いに行ったときに、同じ日本語教室の学習者さんで、ウズベキスタン出身のフィル―ザさんと、タイ出身のアンさんという二人からも「とくい」を預けてもらいました。みなさん、カムオン!ありがとうございました。
さて、ふたたび常総線にゆられて、いこいーの+Tappinoに戻ります。
電車の中でも、銀行の看板はなかなか目立ちます。
いこいーの+Tappinoでは、アーティストのダルシャナさんと会いました。
スリランカ出身のダルシャナさんは、2015年からパートナーの実家がある取手に住んでいるそうです。実は取手市藤代庁舎前の跨線橋下で、ダルシャナさんの大きな壁画が見られます。お近くにお越しの際にはぜひ見てみてください。ダルシャナさんが預けてくれたのは「ねんどで顔をつくる」と「スリランカ料理つくります」。北京で彫刻を学んでいたころ、公園や道端で、道行く人々のスケッチをするみたいに、粘土で顔や姿をつくることを、練習としてやっていたそうです。顔はだいたい35分くらいあればつくれるそうです。早い。それから、ダルシャナさんのスリランカ料理はとても辛いらしいので、引き出すときには気をつけてください。
1月21日(月)リサーチ最終日
午前中はアメリカ生まれ・イスラエルにルーツを持つアーティストのダフナさんに会いに行きました。
ダフナさんのおじいさんとおばあさんは、ドイツとポーランドで生まれ、第二次世界大戦前にイスラエルに渡り、そこでダフナさんのお父さんが生まれたそうです。ダフナさんは2001年に、パートナーの幸一さんが住んでいた日本に来たそうです。ダフナさんのつくる作品は、身の回りにあるものや、古布などもう本来の目的では使えなくなったようなものからできます。健康でオープンであることを大事にするダフナさんが預けてくれたのは「くつしたをなおす」。穴があくほど大切にはいたくつしたがあったら、ぜひ引き出してください。
最後に「東海学院文化教養専門学校」の生徒のみなさんに会いに行きました。
休み時間のちょっとした時間に、予習復習に忙しい生徒さんたちをつかまえては、お話を聞かせてもらいました。「とくい」を預けてもらうというよりは、いろんな場所から来たみなさんのいろんな話を聞くだけで、あっという間に時間が過ぎていきました。
そんなこんなで、三日間の営業活動は無事に終わりました。
今回、お預かりした「とくい」は10件。
インターナショナルなものから特にインターナショナルでもないものまで、じつに様々な「ちょとく」が集まりました。
「とくいの銀行」では、今回の営業活動の成果として「取手インターナショナルひきだそう会」を画策しているとかいないとか。これからの「とくいの銀行」井野本店の活動も、おたのしみに。
http://www.tokuinobank.net/
現在あずけられている「とくい」の一覧もご覧いただけます。
美術家/取手アートプロジェクト《アートのある団地》パートナーアーティスト
1984年山梨県生まれ。2008年に鈴木一郎太とともにNPO法人クリエイティブサポートレッツにて「たけし文化センター」を企画。2010年個展「うんこふみふみたかふみ文化センター」。2011年より取手アートプロジェクトにて、お金のかわりに自身のとくいなことを運用する《とくいの銀行》を開始。2012年に浜松の中心市街地にて、様々な場や活動を障害物にしたイベント「しょうがいぶつマラソン2012」(浜松)を企画。また、越後妻有大地の芸術祭にて、非常事態を表現活動に翻訳する「非常美術倉庫」を制作。2013年、山口情報芸術センター10周年記念祭にて、とくいの銀行を運営しつつ、商店街のまちづくりを劇的に行った《とくいの銀行 山口》。2014年、発達のゆるやかな幼児の通所施設「根洗学園」で行ったプログラムの展覧会「おべんとう画用紙」、土で現像する写真スタジオ《photoground》(めぐるりアート静岡、2014)を制作。
「とくいの銀行」では、新たにとくいの「引き出し」「預かり」「利用促進」をおこなう”銀行員”を募集しています。また、「とくいの銀行」のご利用も随時受け付けております。
※銀行員の活動、またとくいを引き出された場合、いずれも謝礼などは発生いたしません。予めご了承ください。
取手アートプロジェクト実施本部
TEL:0297-84-1874(火・金 13:00~17:00)
E-mail:tap-info@toride-ap.gr.jp