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レポート:多様をほぐすストレッチ#5「『異文化』ってなんだろう?」

終了しました 2024/11/29


昨年度からスタートした、藝大アーツプロジェクト実習 取手コースの「多様をほぐすストレッチ」は、近年多くのシーンで触れられることが増えた「多様」に含まれるものがなんなのか、私たちに見えているもの・見えていないものをほどき、ゆっくり向き合い、対話して考える公開型研究会です。
研究会では「多様」という言葉の重なりの中で凝り固まった体と頭を伸ばして、
この言葉の内と、未だ外にあるものに、ひとつひとつ出会う時間を持ちたいと思います。

今年度の初回は、#5「『異文化』ってなんだろう?」。
樺太アイヌの北原モコットゥナㇱさんをゲストにお迎えし、マイノリティとして感じる違和感とはなんなのか、はたまた文化とはなんなのかということについて考える場になりました。

講座が始まってすぐ、まずはみんなでラジオ体操をしました。身体をほぐすところからスタートです。
とはいえ、普通のラジオ体操ではなく、アイヌ語で歌われているラジオ体操。

最初はなんと言っているか聞き取れない、分からない、と思いましたが、身体は自然と動き、聞いているとなんとなく「1・2・3・4」がアイヌ語で言えるようになってきたり。
不思議な感覚でしたが、徐々に言語に対する意識がほぐれていったように思います。
そして何よりみんなでおこなうラジオ体操は面白かったです。

次に、この研究会のテーマである「多様性」についての話。マイノリティにとって、自分のアイデンティティを明かすというのは、残念ながらまだ被差別リスクを考え慎重に判断しなければならない行為です。
そのため、「〇〇な人には会ったことがない」と思う方もいるかもしれませんが、それは単に「カミングアウトを受けたことがない」だけであり、実は身近に様々なアイデンティティを持った人は暮らしているのです。

そして、今回の講座のキー「文化」についての話へと移っていきます。
文化というものは、人間が本能的に身に付けている行動・習性以外の全てを指します。 それらはマナーや常識とされ、自文化を中心として他の文化を「変」だと感じるようになります。
世界共通の「文化=常識」はありません。そのため、「文化」に注目することで私たちの当たり前を変えていくことができると言います。

ということで、参加者全員でアイヌ語に挑戦。 近代以降のアイヌ語は文字を使ってきましたが、いまだに「文字がない」と紹介されます。
そして、日本で育った人は、実際には日本語を身に付ける過程で非文字文化を経験しながらも、非文字文化を特異なものと考えがちです。そこで、あえて口頭でアイヌ語を習得するワークを実施していただきました。
北原さんの発音を聞き、音と口の形で覚えて話してみます。初めは同じ発音に聞こえた言葉も、教わった後に聞くとしっかり違う言葉に聞こえるのだから不思議です。みんな揃ってアイヌ語で自己紹介ができるようになりました。
しかしながら、アイヌ語は現在維持が困難になっています。北原さん自身も家庭で身につけたわけではなく、自分の言語を学び直し、取り戻しているそうです。
方言などは文字に起こさなくとも続いてきているし、かつてはアイヌ語も受け継がれてきていました。しかし、明治期に日本語が強制され、アイヌ語は急激に衰退してしまったそうです。自文化とは「質が違う」から、「初めから対等ではない」と思うことで、排除を正当化してきたのです。

そして話題は文化の比較へと移ります。
印象的だったのは、昔話について。日本でいう「さるかに合戦」の物語と非常に似通った話が、朝鮮や中国、モンゴル、ベトナム、ミャンマー、インドネシア、ネイティブアメリカン……などなど、各地に存在するそうです。また、伝統的な神像などにも同じような現象があります。
これらのことから、「文化」にはそれぞれ個性があれど、横の繋がりが強いことが分かります。常に変化もするもので、変わったことを紐といて理解することも可能です。
お互いに影響し合って形成されてきたものであるならば、果たしてそこに優劣はあるのでしょうか?
「独自」「変化しない」ことに価値を置く見方は、マイノリティにとって非常に窮屈です。

後半では、会場のみなさんに協力をいただいて、ワークをひとつ行いました。
全員が同じスタートラインに立ち、今回は、じゃんけんで負けた人ひとりを「マイノリティ役」としました。
最後にみんながゴミ箱へ丸めた紙を投げ入れるのですが、投げる前にいくつか質問をされます。それは、マジョリティにとっては当たり前の日常が、マイノリティにとっては手に入れがたいものであることをあぶりだすものです。
質問によって、マジョリティの有利さが明らかになるとマジョリティ役の人は一歩進み、マイノリティの不利さが際立つ質問では、マイノリティ役の人は一歩退がります。
最終的に、マジョリティ役の人はゴミ箱の近くから、マイノリティ役の人はゴミ箱の遠くから、紙を投げ入れることになります。
普段は意識していなくとも、生まれた環境・育った環境だけでどれほど差があるのかが可視化されました。
もちろん、個人の能力でそれを乗り越え、ゴミ箱へしっかりと投げ入れる人もいるでしょう。しかし、そこにかかる負担はスタートの時点から違ってしまっているのです。

最後に、「配慮」について。
きっとマジョリティの人々の中には配慮しすぎも良くないのでは、と感じる人もいるでしょう。
配慮したつもりが傷つけてしまうような場面もあるかもしれません。しかし、配慮は存在を知らなければできないことです。知らなければ、いびつな力関係が当たり前になってしまいます。
北原さんは、知識を得るところから始めるしかないとおっしゃっていました。互いを知ることで、多様な状態をつくっていくのだと思います。

次回、多様をほぐすストレッチ#6「多文化共生社会ってどんな社会?」では、 8歳まで無国籍だった「ハーフ」として、外国にルーツをもつ子ども・若者の支援事業に携わられている、三木幸美さんをゲストにお迎えします。
今回の「文化」についてのお話も心に留め、さらに次回、三木さんのお話から「共生」のためには何が大切かを知り、考える時間にできればと思います。

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(レポート:TAP事務局スタッフ)

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