アートのある団地 - 北澤潤「SUN SELF HOTEL」, アートのある団地 - ダンチ・イノベーターズ!
終了しました 2014/06/16
現在、第4回目の宿泊に向けて、準備を進めているサンセルフホテル。
この取り組みについて考え検証するために行われた、シンポジウムの様子をお届けします。
2012年9月にはじまったアートプロジェクト「サンセルフホテル」。
第3回目の宿泊日を控えた2014年2月28日、3331 Arts Chiyodaで「サンセルフホテル」の正体を突き止めるためのシンポジウムが行われた。
その名も「サンセルフホテルとは何なのか?―アート、建築、演劇、環境、コミュニティデザインから読み解く」。
サンセルフホテルは、アーティスト北澤潤が発案し、取手アートプロジェクトと「ホテルマン」と呼ばれる取手井野団地の住民有志を中心としたメンバーが取り組んでいるプロジェクト。団地の空き部屋の一室をホテルに変え、宿泊客を迎える。日中、宿泊客はホテルマンたちと一緒に、特製の「ソーラーワゴン」とともに団地の中を歩き、一泊に必要な電気を集める。夜には、その電気を使って団地の夜空に「太陽」を光らせ、一晩を過ごす。
それはアートなのか、建築なのか、演劇なのか。それともコミュニティデザインなのか
このシンポジウムは、サンセルフホテルの様子をはじまりから見守ってきた、OpenA馬場正尊さんのこんな疑問からはじまった。
「何がおこっているのかわからない。ただならぬことが起こっていることだけはわかるのですが、ちゃんとつかめない。さらに、若干感動している。今日はそれを知りにきました。」
サンセルフホテルは、ホテルマンがみんなで一緒に考えて、楽しそうにつくりあげているプロジェクト。一方で団地の空き部屋を使う、電気を自分で集めて使う、というところには、なにかメッセージが秘められているような。
そんなモヤモヤの塊のようなこのイベントには80人をこえる参加者が集まった。
参加者は行政職員もいれば、都市計画の研究者も、アーティストや建築家、そしてその道を志す若者たちも。中には取手からやってきたホテルマンの姿も見られた。
ファシリテーターを務めるのは、取手アートプロジェクト実施副本部長でもある、東京アートポイント計画ディレクターの森司。
パネリストは、自身の専門分野から見て「サンセルフホテル」を好き勝手語ってもらうことを期待してのキャスティングとなった。
半分身内のダンチ・イノベーターズ!チームディレクター、OpenAの馬場さんはもちろん建築の分野から。そして演劇の視点から、ドラマトゥルクの長島確(ながしまかく)さん、文化政策の観点から三菱UFJリサーチ&コンサルティング芸術文化政策センター長・主任研究員の太下義之さんという専門性の高いゲストに同席いただいた。取手アートプロジェクト実施本部長の熊倉純子がアートマネジメントからの視点を担って、シンポジウムがスタート。
まずはサンセルフホテルがどんなものなのかを共有するために、2013年9月に行われた第2回宿泊の様子をまとめた15分間の映像が流される。
バスで到着した宿泊客を迎えるホテルマンたちのソワソワした様子。
みんなで電気を集めにいくところ。
子どもホテルマンたちが企画したビンゴ大会。
集めた電気で夕闇のなかに手づくりの“太陽”を上げる、よるの太陽まつり。
名残惜しそうなホテルマンたちの見送りシーン。
ぎゅっと凝縮された一泊二日から、会場へと意識が戻る。
“制度”の不可思議が浮かび上がった
映像を見た後の口火を切ったのは馬場さん。
「団地をホテルにするというプロジェクトなんですよ。建築の目線からいうとこれは用途変更ということになるわけです。普通に考えたら、大変な手続きが必要です。
けれど『これはアートです』という伝家の宝刀をきることによって、突破しているわけですよね。」
第1回宿泊後、イベントの様子を知った方から「法律違反じゃないのか、営業許可はとっているのか」などの指摘が、管轄の保健所を経由して取手市に入った。その指摘を受けて、第2回宿泊を迎えるために“ただのアートプロジェクト”だったサンセルフホテルは、他の一般的な宿泊施設と同様に保健所や消防、警察での手続きを経ることが必要となった。
「通報があったら動かざるを得ない行政の立場であるとか、それ自体を浮かび上がらせているというのが楽しかった。数々の問題提起をし、さざ波を立てているというとこを目の当たりにしたんです。」
参加者の役割があり、時間の尺がある。
演劇から見た長島さんのコメントは、あるキーワードから始まった。
「これ、お祭りだと思いました。神様が年に1回やってきて、地域の人がもてなすわけで。一晩泊めて、送り出す。宿泊客になったら神様の気持ちがわかるのかな、と。」
「演劇のほうに話を修正しますと、“やってみる”ということはすごく演劇的なんです。現実に必要あってなにかをやるんだったら、それはただの実生活なんだけど、そうじゃなくて。”やってみる。”」
ホテルマンたちにはそれぞれ役割がある。宿泊者がやってくると「女将」として挨拶をしたり、「コック」として料理を振る舞ったり、「太陽部」と呼ばれソーラーパネルの専門家として頼られる。
「それと、お客さんもすごく協力しないといけないんですよね。違う言い方をすると、やってる人たちのほうががすごく楽しんでて、充実感がものすごい。
実は演劇もそういうところがあって。いきなり目の前で演じられるフィクションに乗っかるお客さんの努力も不可欠なんです。その双方向の努力の出会う場所として、このホテルはすごくおもしろいイベントだと思いました。」
森から、時間軸についてどう考えるか、という質問が投げかけられる。
「実際に街、外でやってますよね。バスの時間や昼夜がある。実際の生活と同じ、地球の自転、太陽の軸の公転によってできている時間の尺を、実生活とは別の、もう1つの物語に使う。実尺で使うっていうのは、おもしろいと思いますね。」
象徴となる太陽は、なにを照らしたのか
象徴となる太陽が上げられないと成立しないこのプロジェクト。電気をためる、その電気だけで生活をする。この行為から、3.11以降に意識することが多くなったエネルギーのことを意識した方も多いのではないだろうか。
太下さんのコメントは、そんな目線から。
「私、このプロジェクトのことをお伺いしたときに、真っ先に思い浮かべたのは3.11なんですよね。
日本の高度成長に対応するような形で供給が進められた団地と、経済活動、産業活動が起こることで増えていった電力需要に対応するための原子力。」
「サンセルフホテルは自分たちで発電して、自分たちで太陽をつくろう、というプロジェクトですよね。一方で、原子力というのは実はそういうことだったんじゃないかという見方もできると思うんですよ。」
「僕らはもうちょっと、このプロジェクトを通して、いろいろなことを考えていかなきゃいけない。そうしないと、原発というものはきっとなくならないんだろうと。」
絶対的な無用性
4人目のパネリストは取手アートプロジェクトの実施本部長・熊倉純子。サンセルフホテルの発案から実現までに携わってきた。
「北澤さんは皆さんの妄想のスイッチを入れるのが上手で。世の中に既に存在しているなんらかの役割みたいなものを、参加してくださった一般の方々が自ら発見して、それを演じることに面白味を見いだして。それを真剣にやるというタイプのアーティストなんです。」
活動の様子を見ていると、北澤さんはあくまでもホテルマンの1人として関わっている。
「どこが作品なのかと言われると、どこなんだろうか。つくったカーテンなのか、ランプシェードなのか。どう考えてもホテルには不必要な太陽なのか。
アートと言うには、なにか絶対役に立たないものが必要なのですけれど。絶対的な無用性。目的にまったく沿わないものがあると、美学的にはアートっぽくなると言われてるんですが。
でもどこが、北澤潤とサインしてある作品なのかと言われると、よくわからない。それはあえて存在しないのかもしれない。
けれどホテルマンとお客様がいないと成立し得ない。まさにプロジェクト型。作品と呼ぶかどうかは、またもうちょっと考えます。」
発せられた言葉は、すべてサンセルフホテルを構成する要素
パネリストからのコメントが出揃ったところで、会場の客席で話を聞いていた、アーティストの北澤さんにマイクが渡る。
「サンセルフホテルが持っているものが、領域横断的にいろいろな言葉に変わっていくということが、僕にとっては嬉しい。プラス、しめしめと思っています。」
パネリストから出た言葉の数々は、すべてがサンセルフホテルを構成する要素だという。
「熊倉さんが言ってくれた、妄想の部分っていうのを僕はすごい信じていて。いろんな人が関わってくれて、一緒に妄想をしていく。妄想だったり、つくってみようとする気持ちだったりとかは非常に根源的で。それがないとなにも始まらないのかな、って思います。
作品をつくるっていうよりも、妄想が起こる1つの時空というか。場所をつくることによって、妄想が引き出され、いろんな人がある種アーティストになりながら、こういう未分化の現象を生んでいくこと自体が、逆説的に僕のアーティストとしての仕事になっていると。」
みなさんからのご意見をいただいたところで、馬場さん。
「熊倉さんが言ったアートの絶対的な無用性と、北澤潤が言った根源性というところに、なにかの親和性があるような気がしてしかたがない。あの一見無駄な、太陽を上げるという行為に、心震わされちゃうんだなってことはわかってきた。」
長島さんからは、太下さんのお話を受けてのコメント。
「宿泊に使うのは昼間とれたつくりたての電気ですよね。魚を自分で釣って、それが夕食にでてくる、みたいな感じなのかな。その距離感と、自分でやるっていうことの意味は、実は3.11、あのことが起こってすごくはっきりした。生産と消費の距離感みたいなことは、このプロジェクトのなかで、なんなのかな、と。」
その後は太下さんからスロバキアのコシツェという街にある団地でのアートプロジェクトの紹介や、会場に参加していた建築家の佐藤慎也さんが2008年の公募展の際に井野団地で1ヶ月レジデンスしプロジェクトをおこなったときの話へと、グローバルからローカルへ、言葉が重ねられていった。
サンセルフホテル第2回宿泊のお客様である、鶴岡さんも会場に来ていた。
「ほんとうに、神様になったんです。まるで皇室の方がいらっしゃったみたいだって。ほんとに次から次へと、もてなしをしていただいて。
一回太陽の風船が割れたとか、起きたトラブルなんかも含めて、とても楽しかったです。」
最後に馬場さんから、アーティストの作家性・主体性についての疑問が問いかけられた。それに応答したのは熊倉。
「作家性がないわけじゃない。ゼロじゃないとは思うんですけれども、そんなにこだわらなくてもいいんじゃないの、とも思っていて。創造性はすべての人の中にある、そういう風にちょっと変わってきてるのかなっていう気もするんです。」
さらに熱の高まりそうな議論の途中で、時間切れとなり、シンポジウムは終了。
サンセルフホテルを巡るみなさんのモヤモヤは、少しでも晴れただろうか。
ますますわからなくなってきた気さえする、様々な視点からの「サンセルフホテル」という現象を解体するこの試み。
新たな意味が重なって見えた今回のシンポジウムを通して、サンセルフホテルは今後どんな形に育っていくのだろうか。
撮影:伊藤友二
今後も、定期的にホテルメイキングのためのワークショップ・団地ホテルづくり市民講座が開催されます。どうぞお気軽にご参加ください!次に宿泊されるお客様をまず決めて、「その方のための」1泊2日をつくっていきます。内容はホテルマンによる検討を経て決まっていきます。
現代美術家。北澤潤八雲事務所代表。
行政、教育機関、医療機関、企業、商店街、町内会、NPOなどと恊働しながら、国内外各地で人びとの生活に寄り添うアートプロジェクトを企画している。日常性に問いを投げかける場を地域の中に開拓する独自の手法によって、社会に創造的なコミュニティが生まれるきっかけづくりに取り組む。代表的なプロジェクトに、不要な家具を収集し物々交換することで商店街の空き店舗を変化し続ける「居間」に変える《リビングルーム》や、仮設住宅のなかに「手づくりの町」をつくる《マイタウンマーケット》、地域の空き家をつかって太陽光発電で泊まる「ホテル」を開業する《サンセルフホテル》などがある。
■北澤潤八雲事務所 www.junkitazawa.com