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「あしたの郊外 –Post Suburbia−」キックオフ・シンポジウム  イベントレポート Vol.1

終了しました 2015/01/18


 

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2014年10月20日。横浜BankART NYKにて、取手アートプロジェクトと Open Aの新プロジェクト「あしたの郊外」のキックオフ・シンポジウムを開催しました。
さまざまな郊外観が飛び交った、当日の様子をレポートします。

 

▶プロジェクトの情報は、こちらでもお知らせしています。
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「あしたの郊外 -Post Suburbia-」キックオフ・シンポジウム

秘密基地で作戦会議

会場となったのはBankART内にある美術家・川俣正氏の作品の中。パレットが組み上げられた薄暗い空間で、登壇者と来場者の区別がつかないような配置となった場内はまるで秘密基地に集い、作戦会議でもしているかのような雰囲気を醸していた。

komanosuke_10_25_28 バタバタと準備が進む中、最初に話しはじめたのは、今回のプロジェクトの舞台となる茨城県取手市で活動する「拝借景」の面々。取手に暮らすアーティストの目線から、この日を皮切りにスタートする「あしたの郊外」の公募、応募第1号プランとしてのプレゼンテーションが行われた。

<プラン詳細は「あしたの郊外」ウェブサイト内で公開中>

「拝借景」は借家でありながら大家さんの全面的許可を得て、自身らが住まう文化住宅を改築・改造し続けながらアーティストの交流拠点として形作っているチームであり、場そのものでもある。

応募プランでは、取手の各地区に数多く存在する文化住宅をまるごと美術館に変え、郊外である取手での暮らしを特有の価値へと変換していくことを提案した。取手に実際に暮らし活動する彼らならではの熱が組み込まれたアイディアは、会場にいる人々に「郊外」における妄想の一端を、そしてこれから始まる議論の気配を感じさせたように見えた。

 

「あしたの郊外」のはじまり

拝借景のプレゼンテーションののち、いよいよシンポジウム本編がスタート。今回の「あしたの郊外」プロジェクトを牽引する6組の「郊外を考える人」が紹介された。

このプロジェクトには建築家・ OpenAの馬場正尊氏を筆頭に、BankART1929代表・PHスタジオ代表の池田修氏、現代芸術活動チーム「目」の南川憲二氏と荒神明香氏、スローレーベル ディレクターの栗栖良依氏、そして取手アートプロジェクト実施本部長の熊倉純子、実施副本部長の森司が「郊外を考える人」として関わっている。「郊外を考える人」は、今後公募で集まってくるプランを一緒に受け止め、議論を交わし、プランの実現に向けてサポートしていくことになる。

まず熊倉から「あしたの郊外」を取手アートプロジェクトが実施するに至る経緯が話された。

<熊倉>
常磐線で上野から40分、利根川を超えて千葉から茨城県に入った最初の駅が取手駅です。昭和40年代に2つのURの大きな団地ができたことで、いわゆる郊外都市、東京に働きに行くサラリーマンの方々に住まいを提供する街へと変貌しました。高度経済成長期に住み始めた方々の方が、代々住んでいる方よりも人口的には少し多いのではないかと思われます。

取手アートプロジェクトは、東京芸術大学の取手校地ができたことをうけて1999年から東京芸術大学と、取手市と、それから多くの市民のみなさまの3者共同というかたちでプロジェクトを実施していて、現在15年目という息の長いプロジェクトです。

当初2009年までは毎秋展覧会形式で、取手に暮らすアーティストたちのアトリエを公開するオープンスタジオと、全国から設定されたテーマに作品・プランを応募して、作品が外からやってくる公募展というのを続けてまいりました。ただご存知のとおり2000年代に入ると越後妻有のように、作品を会期中に観に行くというタイプのものは取手よりはるかに大型のものがたくさん出現をしてきたことも受けて、2010年に組織をNPO化するとともに、テンポラリーなイベントから、よりパーマネントに、実生活に働きかけるようなプロジェクトに転換できないかなという風に考えて、新たな道を模索しました。

郊外都市の2つの側面。自然というか緑、田園に近いところにあるというところを注目した《半農半芸》というプログラムと、もう1つ、多くの人がベッドタウンとして暮らすまちであるというころで《アートのある団地》という、2つのコアプログラムを据えて活動をしてきました。《アートのある団地》では2つのURの団地と協働することを提案し、全国各地の団地で新しい住まい方を実践的に提案なさっているOpen Aの馬場正尊さんをディレクターにお迎えして活動を推進してきました。

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当初からURに「空いてる部屋をアーティストが改装し、それを付加価値として貸す」ということを提案し、いつかやりたいけれど、と温めていたところに、一昨年国土交通省から「郊外で大量に空き家化している中古住宅をなんとかしたいと思っているので、アートで中古住宅がもっと流通するような仕組みを考えるのはどうですか」というお声がけをいただきました。もともとやろうと考えていたことなので、それでは、ということで手を挙げることになりました。

そんなことで、ちょっと変わったプロジェクトを立ち上げることにいたしました。

 

美しいふるさと「郊外」

その後は設計事務所OpenA、「東京R不動産」そして「団地R不動産」を運営している馬場さんから、このプロジェクトのコンセプトについて。

<馬場>
一昨年から取手アートプロジェクトと一緒に、現代の団地とどう向き合うかっていう仕事をやってきました。リノベーションとか建築の仕事はいろいろなところでやってきたわけですが、それだけでは掬い上げられない課題を、アートという枠組みがあるからこそ向き合えるんじゃないかと思って参加しています。

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取手に通っていると「郊外」に目を奪われるわけです。でかい問題だと思います。だから郊外に対する問題定義をしようだとか、だいそれたことを考えているというよりも、謎かけに近いんです。「郊外」という巨大な問題に対して、みんなでなにか考えたい。クリエーターがなにを考えているのかっていう、地図を見たいというか。

職場と住む場所を分けていこうっていうのが、近代に都合がよかったわけですけれども。郊外は住むためにつくられたまちだったんです。ベッドタウンっていう単語に象徴されるように、寝に帰る場所、それが郊外という街の特性だったわけですよね。みんな長い時間かけて通っていた。でも周辺から中心に居住が移って、都心は人口が増えるけれども郊外はどんどん人口が減ろうとしている。そして空き家がどんどん増えていく。機械のように大量生産された住空間が、住むという目的を奪われたと同時に、なんの目的もない空間になるわけですよね。

一見それは悲しい事のように思えるんですけれども、1つ枠を外すと、機能という呪縛を、もしかしたら近代という呪縛から解放されたよくわからない空間がそこにあるという風にもとれるんじゃないかと思ったんです。さっきの拝借景のめちゃくちゃな住み方みてると、その一端を垣間見た気もします。

もう1つ、みんなと共有できるかわからないんですけど、郊外の均質な住宅や団地が並ぶ風景を「美しい」って思うんですよね。郊外のスーパーで、整然とものが並んでる中に身を置くと、異様に安心するんです。

どうですか、みなさん。それはアンビバレンスなんですよ。なぜかわくわくしたりとか。美しく思えることもあるんです。安心することもあるんです。郊外はもしかしたら、僕らの世代にとっては「ふるさと」かもしれない。今は郊外に里帰りする人もいますよね。僕らの記憶と、それがなくなろうとしている状況にどう向き合うのかっていう風にも思うわけです。

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そんなことを考えてるときに、国交省の空き家対策事業の話がきて。そのもやもやを国も思っていたんだと。それは社会問題としての空き家だったかもしれないけれども、アートで見ている世界と、国が政策として持っている世界がどこかしらでつながってるのか、突き詰めたらまったく乖離している可能性もあるんだけれど。それも含めて、トライしてみることには価値があるのではないかと。

僕に答えがあるわけではないんです。でもそれが郊外の置かれている状況なのではないか。すごくおもしろいフィールドなんじゃないかと思えてきて「あしたの郊外」というテーマを考えました。遠い先の郊外について考えてもおもしろくないと思ったんです。「あしたの郊外」です。目の前に迫っていることについて向き合ってみたい。

いわゆる建築という文脈だけだと、どうしても”いいこと”しないといけなくなってしまうけれども、アートという枠組みである瞬間に、それはもう1つタガが外せるんじゃないか。この時代に郊外についての表現を考えることは、一般的な常識的社会的回答で突破できない。おそらく、僕は郊外問題なんてそんなもので突破できるわけないと思っているところがあって。けれどアートという枠組み。枠組みがない枠組みゆえに、突破できるなにかがあるのではないかという謎解きです。

ちょっと大げさな話になっていますが、一緒に、かなりラフな気持ちで取り組んでいって、ぽこって出てくるなにかが「あしたの郊外」の風景を垣間見せてくれたり、変えてくれたりする。そういうことが起こればいいなと思って、このプロジェクトを取手アートプロジェクト、それから郊外について考えるみなさんと一緒にはじめようと、今日の日を迎えています。

 

Vol.2 「郊外を考える人」のプラン・ステイトメント>>>

Vol.3 さまざまな「郊外」観>>>

撮影:西野正将

「あしたの郊外」公募スタート

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「あしたの郊外」をつくる、プランを募集しています。

美術、建築から身体表現、コミュニティデザインほか、提案のジャンルは問いません。
さまざまな角度からあしたの郊外の可能性を模索する、参加者・共創者を募ります。

公募受付期間:2014年10月20日(月)〜2015年1月31日(土)
詳しくは「あしたの郊外」ウェブサイトよりご確認ください。

プロジェクトの情報は「あしたの郊外」facebookページでも更新しています。

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