アートのある団地 - そうぞうする団地
終了しました 2025/05/12
井野団地や取手のまちで生活している方とともに、少し先のこの地域・この社会に必要な「仕組み」を実験し、団地を起点に将来の設計をつくっていくことを目指して活動している「そうぞうする団地」。
この春から実験が本格始動していきます。そのキックオフとして、実験パートナー2組をプレゼンターに迎えて、伴奏パートナーの2人、会場のみなさんとともに今後の活動についてお話しする会を開きました。
4月19日(土)。春ながら気温は夏並みで、半袖でも汗ばむような陽気。
そんな中、井野団地ショッピングセンターの空き店舗「105」でのトークイベントを開催しました。
2024年夏から公募を開始し、パートナーを募ってきた「そうぞうする団地」。11月より緩やかに動いてきましたが、2025年春以降、活動が本格始動していきます。
今回は、4月以降企画がスタートする実験パートナー、未確認歩行物体とSaGASの2組をプレゼンターにお迎えし、どんな企画をどんな思いで実施するのか、たっぷりとお話しいただきました。
聞き手は「そうぞうする団地」伴奏パートナーの2人、東京藝術大学の西尾美也准教授、TAP包括ディレクターの羽原康恵、本事業コーディネーターの田中天眞音でした。
1組目は、未確認歩行物体の川本早花さんと菊地晴さん。
東京藝術大学先端芸術表現科の修士2年生である二人は、現在取手にある藝大の校舎へ通い学んでいます。
「装飾/有態」「フィクション/アクション」「モード/カジュアル」などをテーマに、過去にもさまざまなプロジェクト型の活動に取り組んできました。
今回「そうぞうする団地」では、「一団の生地、余地、あるいは土地(いちだんのきじ、よち、あるいはとち)」という企画を実施します。 トークイベントの会場でもある空き店舗の「105」に、団地の方から集めた「勝負服のクローゼット」をつくっていく、というプロジェクトです。
さて、突然ですがみなさんは「勝負服」を持っていますか?
当日会場では、未確認歩行物体のお二人や、登壇していた面々の着ている服にまつわるエピソードが披露されました。
そのエピソードたちには、大切な誰かであったり、過去の思い出であったり、その人の一部が垣間見えるような面白さがありました。
あらかじめ「勝負服」をとお題が出ていた伴奏パートナーも服の由来を紹介する一幕が。
そして未確認歩行物体のお二人は、この日のトーク後の後半イベントとして、手づくりのスパイスカレーを囲む回を企画。この日を皮切りにいろいろなみなさんの「カレー」のレシピを聞いて集めたり、一緒に食べたりする会を開いていくことも、勝負服を集めるプロジェクトと連動して行っていきたいとのこと。
服は誰もが持っているものです。カレーも多くの人が作る、家庭料理の代表のようなものです。
一見、誰しもに共通するようなものの中に、オリジナルを見出していく企画になっていく予感がしました。
菊地さんは、カレーがあると自然に人が集まってくると言います。(そしてこのあとのカレーの会ではまさにその通りになりました!)
間口や関わりしろが広い「服」や「カレー」をきっかけに、空間や料理を一緒につくりあげていく喜びや、自分以外の誰かを思い浮かべるような回路が生まれていくように感じました。
西尾先生は、コレクションした先、集まったものたちにどう意味を見つけていくのかが重要で、編集に留まるのではなく、そこから価値を生み出していくのがアートであり、アーティストの役割なのではないか、との投げかけを。
お二人がアウトプットをどうしていくのか、形になっていくのが今から楽しみです。
「一団の生地、余地、あるいは土地」では、勝負服を紹介してくれる人・カレーのレシピを教えてくれる人を募集しています!
気になる方は、開催日に直接お越しいただくか、お問い合わせください。
もちろん、ふらっと遊びに来るだけでも大歓迎です。「105」が開いていたらぜひ立ち寄ってみてください。
2組目は、SaGASの下山順さん、杉浦岳さん、関沢伸太郎さん。
建築・映像・都市計画と多様な分野を専門とするメンバーのみなさんが、デザインの力で”思い込み”を解体していくことを試みます。
株式会社としてさまざまなお仕事をされているみなさん、今回は団地を舞台にしたこの実験にパートナーとして手を挙げてくださいました。今回の「そうぞうする団地」では、「まちかどもうそう倶楽部」という企画を実施します。
この企画は、
という企画です。
具体的には、実際に団地周辺のまちを歩いて、空間や暮らし、日常の振る舞いをサンプリングし、それを他者としての “宇宙人的”な目線から見て、異なる意味や価値観を発見していく活動、とのこと。発見した異なる意味や価値観から考えた新たな使い方は絵で表現し、それに名前をつけてアーカイブしていきます。
建築を専門にしていると聞いたら、新しく建物をつくることを想像する人が多いかもしれません。しかし今回のSaGASのみなさんの活動は、まちの形をハードから作り変えるのではなく、まちに関わる人の視点や意識を変えることで、まちの暮らしを変えていくことを試みます。(詳しくはこちら)
杉浦さんは、今回の実験を通して、「ありふれた日常を楽しくする” 空間読み替え” の補助線を引く」ことを目的としていると語ります。この補助線とは人であり、補助線=ユーモアのある人間が増えることで、まちの暮らしが創造的になるのではないかと考えているそうです。
西尾先生からは、SaGASのみなさんが普段の仕事の現場ではなかなかできないようなことを、今回の取手というフィールドで実験できているのでは、という投げかけがありました。ある専門性を持つ人が、普段の仕事からは離れつつも、日常に還元されていくようなやったことのない実験が可能な環境、こういった状況がどんどん社会に増えていくべきだというコメントがありました。
また、当たり前と違う見方をすることにはおもしろさがあり、「まちかどもうそう倶楽部」はその訓練ができる、”アートの練習”のような企画だと感じたそうです。
ある行為がパフォーマンスに見えてくるような、景色の楽しみ方の感覚を身につけると、なるほど、今目に見えているものに違う意味を思い浮かべる、いろんな発想が生まれていくかもしれません。
普段は全く疑問を抱かずにしている生活の中のとある行動、ある種すでにデザインされているような行動を否定せず、捉え方のほうをどんどん自由な発想で広げていくことは、消費されている身体を取り戻すことにも繋がっていくのではないかとの言葉も、西尾先生から投げかけられました。
羽原からは、SaGASさんとの相談が一番企画の練り直しが多かったという裏話があがりました。
今回の「そうぞうする団地」では実は、手を上げてくださった方を審査するのではなく、まずは全員相談会に来てもらい、それぞれの企画の動機や目指したいこと、実験したいこと、を話すというプロセスを経てきました。
SaGASさんとは対面、オンラインと相談を重ね、何度もプランを出していただいた中、最終的に団地の生きている風景をさまざま見立ててみる形、そしてそれをシェアする活動を行う、という形に落ち着きましたが、土台にあるテーマは一貫していて、生活のなかにあるものの捉え方を変えていく、そこから人の視点が変わっていく仕組みを提案することでした。
すでにいくつか日常の行為をリサーチもされているSaGASのみなさんの妄想がすでに溢れはじめている時間となったトークでしたが、生きた団地に、クリエイティブを個々人が見つけていった先に現れる景色が今から楽しみです。
いつも見ていた風景が、違うものに見えてしまい、ふと笑ってしまう。それをついつい話してみたり、実践してみたりするような街角のある団地。井野団地にそんな風景が生まれることを想像しながら、活動していきます。
ぜひ、団地で暮らす方たちが見た団地の景色を教えていただきたく思います。おすすめのお散歩コースも募集中。
また、8月ごろには一緒に違う見方を考えるワークショップも実施予定ですので、SaGASのみなさんと大喜利をしつつ、新たな団地の風景を発見してみましょう!
トークイベントの後、17:00頃からは、未確認歩行物体プレゼンツ「スパイスカレーの会」を実施しました。
トークイベントにご参加いただいた方や、トークには間に合わなかったけれど様子を覗きに来てくださった方、また偶然目の前を通りがかった方も参加して、みんなで一緒に菊地さんのお手製スパイスカレーをいただきました。
さまざまな人が混ざりあってカレーを食べている景色はなんだか不思議でしたが、自然と仲良くなっている人たちもいて、ほっこりする時間が流れていました。
菊地さんがトークイベントで話していた「カレーがあると人が寄ってくる」、その力の一端を垣間見たような気がします。
お陰さまで大盛況。あっという間にカレーは売り切れてしまいました。次回はもっと用意しておこうという反省もありつつ、今後はより多くの団地の人たちを巻き込みながら、「105」でいろんな人と出会って縁を紡いでくれるのだろうと心が躍ります。
「そうぞうする団地」では、今回登壇いただいた2組以外にも、10組以上のパートナーが共に実験に取り組んでくれています。
地域の人が関わることで進んでいく企画ばかりですので、少しでも井野団地や実験パートナーのこれからに興味を持っていただけたら、足を運んでいただけると嬉しいです。
こちらのWebページやいこいーの+Tappino、TAPのSNS等にて随時情報発信をしてまいりますので、ぜひご確認ください!
こちらは、雨の日に使った傘をさせば水が溜まって花瓶にもなるSaGASさんのらしさ溢れるプロダクト。会場でチャーミングにSaGASさんのコンセプトを伝えてくれていました。
レポート:田中天眞音
撮影:Horiguchi Takuya