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レポート:多様をほぐすストレッチ #9「もう、多様って言いたくない?」

終了しました 2026/04/02

2023年度からスタートした、藝大アーツプロジェクト実習 取手コースの「多様をほぐすストレッチ」は、近年多くのシーンで触れられることが増えた「多様」に含まれるものがなんなのか、私たちに見えているもの・見えていないものをほどき、ゆっくり向き合い、対話して考える公開型研究会です。
研究会では「多様」という言葉の重なりの中で凝り固まった体と頭を伸ばして、
この言葉の内と、未だ外にあるものに、ひとつひとつ出会う時間を持ちたいと思います。

今回はゲストにあかたちかこさんをお呼びして「もう、多様って言いたくない?」と題し、たいけん美じゅつ場にて9回目の公開研究会「多様をほぐすストレッチ」を開催しました。
あかたさんには事前に、「参加者からの声も聞きながら、じっくり話し合えるような会にしたい」というリクエストをしており、プロジェクターなどを使わないお話をしてくださるとのことだったので、いつも以上にリラックスできるような会場づくりを目指してみました。

さて、毎回お馴染みのストレッチをしてから、いざスタートです。

自己紹介の胡散臭さ

「まず自己紹介から」と言いつつ、

「履歴書って人を馬鹿にしていると思いませんか? 私の人生を『あなた』の文脈で『あなた』に気に入るように書くという紙。それを薄めた意味で自己紹介も嫌い」

と話し始めたあかたさん。
そして、「何を聞いたら知ったつもりになりますか?」と、話を聞いている私たちに話を振り、3人の方からもらった質問に対して答えていきます。

・普段何をしているか
(国勢調査の時にも思うけれど、この質問ってまるで会社に行ってるとか決まった動作のある人に向けて聞いているような気がする、という前置きのあと)フリーランスとして、働いているところがたくさんある。まず京都精華大学という美術大学で教えている。でも美術の人ではなくて「表現と倫理」というポリティカルコレクトネスについての授業をしている。それから大阪市立阿武山学園という、児童自立支援施設(曰く「少年院のジュニア」)で性教育を教えている。本職は性教育屋さん。

・最近気持ちよかったこと
原稿を提出し終わった次の日の朝、いつまで寝ててもいいと思ったこと。

・一番関心のあること
どうしたら賢い本がもっと読めるか。難しい本を読むとすごい速さで眠くなるから、もう少し読めるようになりたい。 賢くて生きにくい人はたくさんいるけど、世の中の仕組み、人間の仕組みを知って、生きるのが楽になりたいと思っている。

結局マイノリティの人に教えてもらうしかないんですよ

「自己紹介」を終え、話は今日のテーマへと入っていきます。

「今日の朝、多様性が誰のためかわかったんですよ」

あかたさんはそう言いながら、『人種契約』という本を取り出します。
本の帯には「ヨーロッパ倫理学における主要な理論家たちの大半が人種契約の共謀者なのだ!」とあり、ジャマイカ出身の哲学者である著者 チャールズ・W・ミルズは、近代ヨーロッパで「普遍的」な理論を書いた思想家たちは、実際には白人中心の世界観を前提にしていたということを指摘しています。

あかたさんは、賢い本を読みたいと思いながらも、マルクスには興味が持てなかったと言います。
「マルクスの本に何が書いてあるかを賢い人に聞いたけど、結論として、私のことは書いてない。これは男の話だと思った」
マルクスのような有名な理論家が、自分に関係のあることを書いていない。そのような違和感を誰か本で書いていないかと探しているときに出会ったのが、この一冊だったそうです。

「マルクスはまじで世界のことを書いたつもりだったと思うけど、多数派には少数派の世界が見えない」
「この日本で外国籍の人が生きていく中で出会うしんどさは、日本国籍を持ってへらへら生きている自分にはわからない。教えてもらわないとわからない」
「なんでお前に言ってやらないといけないの? と少数派の立場ならイライラする。でも多数派の立場なら、少数派の人に見えている世界は自分には見えない。教えてもらわないとわからない。そういう仕組みじゃないですか」

あかたさんは、アメリカに行ったとき、初めて吊り目だとか肌が黄色いと言われ、人種で差別する人がいることを実感したといいます。差別されることがどんなに嫌な気持ちをもたらして、その感情が自分の何を削るのか、そこで初めて理解したそうです。
「だから、自分の生きている世界の仕組みを知りたければ、結局マイノリティの人に教えてもらうしかないんですよ」
「どういうふうに世界が見えているのかを切実に知りたい。だから多様性とか言うんです」

ある会社でしたジェンダーの話

あかたさんはこの年明けに、近頃どんどん厳しくなっている印刷業界のある会社で、ジェンダーの話をしてほしいと言われて話をしてきたそうです。
印刷業界にはもともと男性が多いのだそうですが、その会社の方からは「女性の社員を入れたいけれど、どうしたらいいかわからない」ということを言われたのだそうです。
男の人だけでやってきて困ったから女の人を入れたいというその話についてあかたさんは、「だいたい世の中の仕組みってそうなっている」と言います。

「ジェンダーという社会の仕組みには、それを動かしてる方とそうじゃない方があって、権力を持っている側には権力を奪われた側のことは見えない。っていう説明をするけれど、説明をしているあいだ中、数少ない女子社員が首を縦に激しく振っていて、男の人たちの上にはクエスチョンマークが出ている」
「少数派の人には多数派の世界のことも少数派の世界のことも両方見えている。だからなんとか参入してもらわないと損をするんだよということを、どうやったら多数派の人に伝わるのかっていうチャレンジをずっとしている」
このお話は、あらゆる場所で「多様性」に関する話をし続けているあかたさんにとっても、そのやり方については試行錯誤の連続であるということがよくわかるエピソードでした。

「なんかしゃべりたいことある人いる?」

ここから、参加者とのやりとりが始まります。
まず出たのは、「こういう話って東京と大阪だと全然ウケが違うんですか?」という質問。
「それは重要な質問です。関西はあかたちかこに笑いを求めすぎる」
そう受け答えをしたあと、「何をしゃべってもいいのが今のでわかったね」とあかたさん。
和やかな空気の中、質問が続きます。

Q. 大学で授業を教えている。中国人、韓国人の学生が多いけれど、日本語で授業をやるしかない。
彼らが何を考えているのか知りたいけれど、日本語を書いてもらうことにもハードルがあるし、大学の授業だと難しい。コミュニケーションはどうしているか。

A. 明らかに私の話をよく聞き、よく理解しているレポートを提出してくるのは、外国から来た留学生。逆に、日本語が母語の人に対して、自分の日本語はどれだけ通じているんだろうと思うことがある。
大学のレポートは、何を書いてもいいことにしている。好きなゲーム、アイドル、音楽、何でもいいと伝える。そうすると授業を重ねるうちに、自分の思うことを書き始める。自由な場を渡すと、話し出してくれる確率が高いと思っている。
権力構造から逃げることで、「何を語ってもいい場所だ」と伝わる。そうすると、人は好きなことを語り出す。だから、できるだけいい加減に見せて、何を言ってもいい雰囲気を態度で知らせるようにしている。
大学院生のとき、プレゼンの授業で「あなたはフラフラしていて賢そうに見えない」と怒られたことがある。でも私は「それでいいです」と思っていた。

Q. 多様性について考える必要性を感じていないマジョリティ、動機や興味関心がない相手に教えないといけない立場のとき、どうすれば伝わるか。

A. 基本的な方針は、楽しそうにやっているのを見せて、気づいてくれるのを待つこと。なるべく楽しそうに見せて、話しかけられる余地を残しておく。
子どもの好き嫌いをなくすとき、「にんじんを食べなさい!」と大きな声で言うより、「え、これ食べへんの? ああ、美味しい〜」と言いながら食べて見せる派。家で黙って一人でにんじんを食べていたいときもあるけど。
他のやり方もあるかもしれないけれど、今のところまだそれがやり足りてないし、行き詰まってもいない。だからしばらくは続けると思う。 他のやり方を見つけたら、連絡ください。

「多様性」に入っていない自分を誇りましょう。

休憩を挟み、さらに質疑応答の時間が続きます。
「マイノリティとマジョリティの立場が入れ替わりながら理解し合える可能性」から、学校現場での話題など、まとめて四つの質問を受けたあと、「今からあと3時間くらいやりたいな」と言って、一つ一つ回答してくださったあかたさん。
あかたさんの言葉を聞いていると、ときどき翻弄されるような気持ちになることがあります。
「多様性」という話に出会うとき、もしくはするとき、ただ真面目に、肩肘を張って構えすぎていたのかもしれない。向き合い方は決して一通りではない。そんなことに気付かされます。

最後に、「マジョリティの考える『多様性』という言葉の中には私が入っておらず、そのことにいじけるような気持ちになる」という方の言葉に対して、あかたさんが話したことを紹介します。

「マジョリティの考える多様性の中に、そりゃあ入ってない。入ってなかったら困るか? 入ってなくてもよくないか? …わからない」
「相手が見所のあるやつだったら教えてあげるかもしれない。でも、まずは放っておく。元気がありあまっているなら、『あなたの言ってる多様性に私は入ってない』と教えてあげてもいいし、意地悪を言ってもいいし、バカにしたり煽ったり暴れたり。自分の体調などに合わせて」
「『あなたに想像のつくような私』ではないということ。『多様性』に入っていない自分を誇りましょう」

多様性について考えるとき、制度や法律、集団のことなど、大きな枠組みから考える視点もあると思います。
けれども今回は、さまざまな個人がどのようにその言葉や状況に出会い、何を思うのか、そんなことを改めて考えさせられる会でした。参加者のみなさんの言葉も聞きながら、一人一人がそのときの状況に応じて、悩みながらもしなやかに、身の回りの環境に働きかけていこうとしていることを感じ、前向きな力をもらうことができました。

そして今回初めて、茨城県立聴覚障害者福祉センター「やすらぎ」さんのご協力により、手話通訳ありのイベントを行うことができました。
また別の点ではありますが、今回、会場のトイレの確認不足や、それに伴う休憩時間の配分などに不十分な点があったことにも気付かされました。
いつまで経っても改善すべき点は出てくるのだと思います。
それでも、少しずつ実践を重ねていくことによって、これまで見えていなかった世界を「教えてもらう」機会となり、よりよい実践につながっていくはずです。

そのような実践に出会える場を、これからも増やしていければと思います。

多様をほぐすストレッチについてはこちらから
(レポート:多様をほぐすストレッチ コーディネーター 遠藤純一郎)

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