TAPの現在地 - 定点観測  事務局長エッセイ, 半農半芸 - 藝大食堂

定点観測 #1  藝大食堂 再開によせて

終了しました 2020/10/30


TAP事務局長兼、藝大食堂のおばちゃん(兼、10月からは日替わり番頭なども)の不定期エッセイをはじめました。

定点観測 2020.10

 

藝大食堂、再開! 
改めて、はじまりました

 

9月から10月、この2ヶ月は目まぐるしい変化がありました。
9月1日、青天の霹靂の「食堂を学外の方に開きつつ、再開してOK」の大学からの一報。
後期の再開もほぼ諦めていた中では大朗報でしたが、急遽のアクセル全開、食堂再開準備のスタートとなりました。

食堂の日々を支えるパートさんたちもいきなりの再招集。コロナに対する感覚がそれぞれ違う中、
どうやったら/どこまで働けるかの話をしながら、コロナ対策を踏まえて食堂も仕組みを一新。
手洗い&マスク必須、出入り口一方通行、椅子は片側のみに間を空けて、換気を徹底……。

こういった基本の設備上のことを整えていく一方で、
食堂の運営に関して、あるプランが持ち上がっていました。
それは「値段をつけるのをやめてみる」ことです。

このアイディアは、再開までのカウントダウンが始まったとある夜の、
数えれば4時間というオンラインMtgの中でテーブルに乗ったあと、
各自思い浮かべつつも準備に奔走する日々。
でもある日の夕方、この数年の藝大食堂の現場にあたってきた
運営チームで今一度話し合い、腹をくくることにしました。

食堂を運営する側が、値段をつけるのをやめてみる。
つまり、利用した人がその日その日、支払う額を決めて払う。
それは、そもそものこの食堂での「食べること」が、若い芸術家の活動を支える、としてきた
この場所の目標のひとつを、ぐっと目に見えるものにするスイッチだと思えました。

経営上はもちろんヒヤヒヤです。
でもそれを上回る、この実験への高揚感と期待感。

もちろん普段の運営を担っていただくパートスタッフさんをはじめ、ほうぼうからの困惑と心配を浴びながら、
どうやればそれができるのか? 後期営業初日ぎりぎりまでかたまりきらないまま9月を走りきり、
10月5日、8ヶ月ぶりに藝大食堂が再び開きました。

久しぶりに人が訪れてごはんを食べているのを見て、
その風景に喜びつつ、密度に戸惑う気持ちがあることにも気づき、正直驚きました。
でも日常が徐々に帰ってきた。
このひと月は、「おかえりなさい!」の気持ちです。

「手洗ってね〜!」と入り口に目を光らせながら、再開後、一変した仕組みについて説明し、
戸惑いや喜ぶ声を聞く番頭役を他の運営メンバー・スタッフと交代でやっています。
おなかいっぱい食べて、制作のため校舎に戻っていく若いアーティストたちを見送ります。
仕組みにびっくりされる学外の方には、この食堂が食べることで若い芸術家の活動を支えていきたい場所であることをお話ししています。

この実験は、ご利用いただくかた次第なので次期以降も続くのかどうかは現時点ではわかりません。
ですのでまずは今期、来年1月末までの営業中、お越しをお待ちしていますね、と食堂のおばちゃんとしては思っています。

 

今日のメモ:食材のこと

利益を追わない赤字すれすれの藝大食堂の厨房にとって、大きな支えになっているのは
実は外部から提供いただく、とれすぎ野菜や規格外野菜です。

といっても、協力してくれる生産者さんを広げるまではなかなか現場の手が回っておらず、
藝大食堂スタート当初から現在までいちばんの大きな応援団は行方市のさつまいも農家、信太さん。
毎回、とっても美味しいお芋を安価で譲っていただいています。
これが食堂のメニューにさつまいもが形を七変化させながら現れるゆえんです。

このお芋は、パートスタッフさんやTAPスタッフが交代で受けとりに行くのですが、食堂再開にあたり、今回は私が向かいました。
予想外におまけたくさん!のお芋と激励を受けての行方からの帰り道、米袋3袋にダンボール3箱分、
ぎっしりのさつまいもを車の後ろに乗せて利根川沿いの道を走り続けていると、
ああ、再開するんだ、という実感がこみ上げてきました。
物理的にもずっしり重いトランクルームは、まるで厚意を載せて走っているみたいだなぁ。

 

行方市から利根川沿いを走る車窓より

 

 

 

text: 羽原康恵(特定非営利活動法人 取手アートプロジェクトオフィス 事務局長)
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