TAPの現在地 - ウィークエンド藝大食堂, 半農半芸 - 藝大食堂
終了しました 2020/11/04
藝大食堂立ち上げから満2年。この場所で、背景さまざまな人が関わる創造的な活動を広げていくために、拠点と活動を週末にひらくプロジェクト「ウィークエンド藝大食堂」がはじまりました。いくつかのプログラムが並走する中、2020年度の活動のひとつの軸として、一番身近にいるはずなのにこれまでは遠かった、藝大で学ぶ学生との活動を試みるため、パートナーを探す学内公募を行うことにしました。
当初は2020年1月から3月までの締切で実施することにしていた公募は、新型コロナウィルスの影響により、5月末まで延長。公募審査も全て、オンラインの画面越しで行いました。
その過程に並行するように発令された緊急事態宣言。前期のあいだは取手校地での授業もリモートで行われることが決まり、藝大食堂もこの時期の営業が行われないこととなりました。
当初の事業目的、またこれまでの人との距離感や関わり方の前提が覆えるかのような状況のなかで、誰とどう関わりながら作品をどう制作し、公開していくのか。公募で選ばれた学生2名と審査員、そして取手アートプロジェクトの事務局が画面越しに集まり、話し合いを重ねていくことになりました。
このレポートでは、その打ち合わせの一部を記録しています。
羽原
しばらくのあいだは各拠点で大人数を集めるプロジェクトは難しいので、TAPでは我々が外に出て、リサーチだったり今まで出会った人たちと、もう一度出会い直す、あるいは新たに出会うことを重ねる期間にしようと考えています。今回選ばれたお2人方の作品も、期せずして藝大食堂から外に出て地域の方々とか変わっていくという点で、TAPとしてもこれから一緒に伴走することを楽しみにしています。
これからお2人がプロジェクトを進めていくにあたり、TAPや小沢さん、毛利さんがキャッチボールの相手になって、お2人が言葉を交わしていくような機会をつくれたらと思い集まっていただきました。
小沢
よろしくお願いします。
毛利
もともと2人が意図していたアイデアがあって、これがこの時代のなかでどう成長していくかを一緒に考えていくのが楽しみです。
羽原
はい。まずは改めて、お2人から作品のご紹介をお願いできますか。
荒川
今回僕が応募したプランは、中身のない額縁を取手市のいろいろな場所や人の助けを借りながらつくっていく、というものです。
経緯を話すと、3月に絵の展示をしたんですが、その際ウィルスの関係で学校に行けず額縁を自作しなくてはいけない状況になったんです。
僕は取手に住んでいて、たまたま家の前が栗林で丸太がたくさん置いてありました。それを譲っていただいて、ノコギリで丸太を板にして額縁をつくることにしたんです。丸太から1枚の板をつくるって大変で、悪戦苦闘しているのを見た通りすがりのおばさんが声をかけてくれて。話してると、旦那さんが庭師とかをやっていたみたいで。家に工作機械があるからって、使わせていただくことになったんです。
そんな経験をしてみて、意外となんとでもなるんだなというか。僕が偶然出会った栗林と工作機械が、地域的な資源みたいなものに感じて。綱渡りしていくように場所や人に出会いながら、脆そうな感じだったり不思議な形をした額縁をつくっていきたいというのがあります。
あとはもうひとつ、つくっていく工程を映像で残します。自分の視点やものの視点、僕が関わる人の視点が混在するようなものとか。額縁と合わせてどこかで実際に展示できたらいいなと思っています。
田中
額縁は、いろいろな素材を拾い集めるんですか。
荒川
木材でやりたいと思っています。取手校地にある木もいいんじゃないかなって。
羽原
ありがとうございます。続いて、(田中)ジョンさんのプランをお話いただけますか。
田中
僕がやろうとしていることを結論から言うと、取手校地が今年で使われ始めて30年になるんですね。それにあたって1回振り返ってみようと。荒川さんと動機が似ているところがあって、すでにある資源を掘り起こすみたいなところが大きいです。
僕も修了制作を控えているのですが、ものをつくるっていうことを一度考え直してみて。新しくものをつくるだけでなく、すでにあるものを掘り起こして価値を加えるということも、ものをつくると言えるんじゃないかと思っているんですね。それで、今藝大の歴史や取手校地の周辺の土地の歴史を調べています。
単に出来事をアーカイブするだけではつまらないので、藝大に関わった方々、取手校地で学んだ卒業生、先生、地域の方や職員、市役所の方やキャンパスに住んでいらっしゃるホームレスの方にもお話を聞いてみたいと思っています。
毛利
今も住んでいる方がいらっしゃるの?
田中
はい、昔はもっといらっしゃったそうです。藝大に関わる方々を藝大食堂にお呼びして、お話を聞く公開インタビューのようなことを記録して。あとはその方々にゆかりのあるものを持ってきていただいて、取手校地の30年を1つの軸にキュレーションするようなことをしたいと考えています。
羽原
履歴に加えて、文字に残されていないような個人の声というか、本当はさまざまな動きにものすごく影響していたかもしれない人の心の動きまで見えると面白いと思いました。
田中
そうですね。最終的に起こってほしいのは、好きでも嫌いでもいいので、取手校地を認知して欲しいということです。知っていて嫌うのと、よくわからないっていうのは全然違うと思うので。知ることで、上野ではこれができて取手ではこれができる、という議論がようやくできるようになると考えています。
毛利
2人ともまだ目に見えない、取手の枠組みみたいなものを浮き彫りにしようとしている。ソーシャルエンゲイジドアートみたいなことに近いという理解をしていて。期せずして2人ともフレームというか外枠というか。これから変わっていくこともあるだろうけれど、2人で一緒にできることもあるような気がしました。
小沢
僕が学生のときは、取手校地を建設する発表があった時期でしたね。まだ公式にオープンするはるか前に、今壁画の工藤先生がまっさきに取手に飛ばされたんですよね。
羽原
飛ばされたっていう感じなんですね。
小沢
そう。まだ校舎もなくて、プレハブのなかで1人、ひたすら作業している状態だったのを覚えています。30年も経ってないけど、それから現在のあいだのことを何も知らないので、ぜひジョンのリサーチを見たいと思っています。それがアートなのかはよくわからないけど、取手でなにかをつくろうとしている人にいろいろな刺激を与えることは間違いないよね。
そして荒川くん。荒川くんはもうちょっと作品っぽいですが、額縁の中が空洞でいろいろなものが入り込める余地がある。今は不安定な時代だと思うんですよね。余地があるからこそ存在価値があるというか、可能性が見いだせるんじゃないかと思って2人を選ばせてもらいました。
羽原
ありがとうございます。これから作品の制作を進めていくにあたって、お2人はどういうペースで進めていけると良さそうですか。
田中
自分としては、最終的なアウトプットは修了制作で行おうと考えていて。そこに向けてやっていくことを藝大食堂との企画にしたいと思っています。この状況で慎重にすべきところはありますが、すぐにでも動き始めたいです。あとは定期的にこういう形でみなさんとお話できるのは、すごく心強いです。
荒川
僕は1回で作品を仕上げるというよりは、トライアンドエラーというか、いろいろな場所に行って試してみたいと思っています。偶然出会う人と始まることがあったり、TAPの活動で関わりのある方のところに連れて行ってもらったりもしてみたいです。
毛利
ちょっとレジデンスっぽいイメージですね。それこそこの地域を調べ始めているジョンから情報をもらって人に会うのもおもしろそう。
羽原
2人とも淡々と制作はしていくけれども、たとえば月に1度くらい今日のような集まりがあって「こんなことがあった」みたいなことを話し、それを記録していくのもいいかもしれませんね。
荒川
コンスタントに発表し続けられるのはいいなと思いました。Web媒体なのか、どこかで。
毛利
小さい新聞でもいけると思う。
田中
新聞、いいですね。
毛利
今はWebが蔓延して情報を見逃しがちで。途中経過を見せていくとしたら、アウトプットもユニークでないと人が注目してくれないから。
小沢
壁新聞とか、どうかな。
田中
取手駅に貼ったりして。
羽原
貼ろう!取手駅の構内に掲示できるスペースがあります。
小沢
ジョンの場合はアーカイブをどう公開していくかも考えていきたいね。将来の取手にとっても。
田中
そうですね。せっかくこういう企画で荒川さんや毛利さん、小沢さん、TAPの方々と一緒にできるので、外に出す方法も考えていきたいです。
羽原
ではこの集まりは月に1度開催しつつ、途中経過の出し方や2人で一緒にできそうなことは引き続き相談していきましょう。引き続き、よろしくお願いします。
毛利
一緒にがんばろう!よろしくお願いします。
次回につづく。
編集:中嶋希実
編集サポート:西山京花