アートのある団地 - いこいーの+Tappino

レポート:UR都市機構xTAP「アートのある郊外&団地の新しい暮らし探訪ツアー」

終了しました 2024/01/19


2024年1月13日土曜日に開催した、UR都市機構xTAPの連携事業「アートのある郊外&団地の新しい暮らし探訪ツアー」レポートをお届けします。

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今回のツアーのきっかけは、UR都市機構さんが取手井野団地に新しく4-5階セット住宅をしつらえられたことから。新しくつくる団地の部屋で、どのように暮らす提案ができるでしょうか、とご相談をいただいたのが昨年の春。

実際に現地を拝見したとき、生活空間のすぐ真上にあるフラットな空間に、ごく自然にわくわくしました。
たとえば芸術家にとって、生活空間から階段を10数段昇れば、すぐにスイッチが入れられるような距離感に活動できる場所があること。そしてこの広い余白は、芸術家だけではなくさまざまな人が好奇心を伸ばして表現する空間になるといいなという予感と期待をもちました。

そこで、今回のツアーは、ただ空の部屋を見るのではなく、表現をしながら暮らしている人びとの様子にも触れられる、「創造的な郊外の生活」をテーマにしたツアーにしましょう!ということで、駅から団地内までにあるアーティストのスタジオを訪問しつつ、新しい部屋とも出会っていただく1日となりました。

迎えたツアー当日。

最年少2歳のご参加者をはじめ、70代後半の方まで多世代のメンバーが集まって、バスは取手駅西口からスタートです。(今回1月1日に募集開始したところ、あっという間にキャンセル待ちになってしまいました……またぜひ機会を作りたいと思いますので、そのときにはぜひご参加くださいね)

 

出発したバスは、まず車窓から壁画の作品群を見学。

2003年のTAPでJR高架下に壁画が制作されて以降は、壁画によるまちづくり実行委員会がつくられ、取手市が地域の芸術家と一緒に市内各所で壁画の制作や管理を続けています。壁画には、防犯や環境維持の効果などが認められているそうです。

取手駅東口駅前から取手第一高等学校を抜け、関東鉄道常総線擁壁のSuikoさんのグラフィティ作品も見てから最初のビジットポイントへ。訪問スタジオは、AP(アートプラザ)どのうとNULL NULL STUDIOです。2チームに分かれてスタジオ訪問。

ヌルヌルスタジオは、ツアー訪問者が入り切るのがやっとのコンパクトなスタジオに、作品とユニークな気配が満ち満ち!でした。迎えてくれた諏訪部佐代子さん君島英樹さん

特徴的な名前の理由は、大家さんが塗ってくれた床がいつまでもヌルヌルしていたこと、2人ともペインターでもあることからの「塗る」、ゼロという意味の「NULL」。

(そしてうなぎのうな子。寒いので水槽の底でほぼ冬眠中。)

3Dプリンタを使った透ける作品もあれば、拾った石をモザイク作品の素材にしたものもある。やわらかいものとかたいものが熱量とともに同居するスタジオだなぁと感じました。

もういっぽうのAPどのうでは、機山隆生さんがスペースの紹介を。
東京藝大取手校地の先端芸術表現科を卒業したアーティスト3名で運営しているこのスペース、入居開始直後に浸水。そこから、防水対策としてはもちろん、場所のシンボルとして、またはじまりを思い起こさせるものとして、「どのう」が物理的にもスペース名にも置かれています。
今回は、展示中の毛利洋さんの「他者たちは(あなたたちは)」を鑑賞。予約制で今後も企画をされていくそうですので、また次のタイミングにぜひ(予約はWEBからできます)。

このご近所のおすすめポイントといえば、の2軒隣のAtelier&café ju-touさんもバスの中でご紹介して次は井野団地へ。

団地のショッピングセンターを一棟共同スタジオとして活用する目的で2007年にできた井野アーティストヴィレッジ(IAV)。団地のいわゆる下駄履きの店舗付き住宅が芸術家の制作場所として利用されていて、現在も20名を超えるアーティストがここで活動しています。取手市と東京芸術大学の連携事業です。

今日は106の山川敦史さん斉藤七海さんが迎えてくださいました。

山川さんの作品。見つめ続けている間に、刻々変化していく線。みているものはシンプルな物体のはずなのに、映像に見えるような、なんだか不思議な感覚になります。

斉藤さんの作品は陶に水や木々など自然由来のものが合わさっていて、不思議な調和を感じます。スタジオならではの、制作途中のものや素材の置かれた中で作品をみると、作品が生まれていく過程も想像できます。

スタジオ訪問の合間にシャッターのシルエットを真似るかわいいおふたり。

 TAPが運営に関わる「いこいーの+TAPPINO」では、少しだけ休憩する間に、とくいの銀行のご案内をしました。

そしていよいよ、新しい4-5階セットの部屋見学へ進みます。URさんが取手井野団地で初めて企画した住戸で、正式な名前はサービスフィールド付住宅といいます。5Fがサービスフィールド、使えるのは電気のみでガス・水道はないのですが、その分家賃が抑えられているそうです。打ち合わせのときにお聞きした、庭みたいに自由に遊べたり、それぞれの時間を過ごせたり……というキーワードから、今回の部屋は「空付近の”庭”=SoraFukin no Niwa」というキャッチコピーがついています。

 

まずはフルフラット・バージョンのお部屋。お子さんだと対角線に歩くと20歩以上必要そう。参加者のみなさんの楽しそうな反応が嬉しいのは、取手井野団地にこういうお部屋が増えていくわくわくがあるからですね。

続いてURスタッフさん私物のテントがサンプルで設置された屋内キャンプ仕様のお部屋。人工芝が敷いてあって、大画面モニターがあって、そんなに飛んだり跳ねたりはできないんですけど、というURさんのコメントが聴こえつつ、遊ぶこと、楽しむことに全振りの部屋って、なかなかないよね、と幾度目かの訪問にもかかわらずあれこれ妄想が広がります。

 

そしてモニターとして先行して暮らしはじめている芸術家、平井亨季さんの部屋へ。

平井さんも井野アーティストヴィレッジの所属アーティストですが、ご縁あってこの9月から、SF付住宅の最初の住人に。そして5Fの部屋を、ご友人のアーティストがこの場所で試してみたい展示のかたちを実験する日々をスタートされています。

今回は杉山迦南さんの展示中でした。とてもささやかな変化や差異を部屋のそこここにそっと置いているような作品ばかりで、いちにちこの部屋でのんびりして、光の移り変わる様子とともに眺めていたいなぁと思いました。
小さい人たちの素直な反応も、大人の驚きの声も。

最後にいこいーの+TAPPINOに戻って、平井さん、UR中山さん、TAP羽原と会場のみなさんとでトークセッション。
UR中山さんより、「取手井野団地は2,000戸あるなかで、この物件を活用して暮らす方が10戸、100戸とひろがっていけば、団地が元気になっていくのでは。(中略)今日訪問したアトリエでは、空間の魅力もそうだけれど、やはりキャラクター、芸術家のみなさんのお人柄が面白くて、そんな方々と一緒に活動するのが楽しみ」という期待のコメントがありました。
平井さんからは、この3か月の実居住を経て変わってきた視点についての話がありました。
「多くの人が訪れはじめたことで、自分がやっていることが、どういう効果を周りに生んでいくのか、ということを考えることがおもしろそう、という考え方になってきた。今回展示をしているけれど、ギャラリーをつくりたい、ギャラリストになりたい、というわけではなく、名前をまだつけられないことがどんどん起きていけばいい。住居とスペースがくっついていること、下ではなくて上についていること、(家だから)ゆっくりくつろげる、というようなこと。団地の英訳は”Housing Complex”と呼ばれることが多いけれど、そのコンプレックス、という言葉を拡大解釈して、住むということをもっと色々な意味で捉えられたらいい。住む、ということにいろんな幅をつくれるような地域、そのための工夫や知恵が集まってくるような形になっていくといい」。
羽原より、「まちが元気になる、というのは、生活を楽しんでいる人が増える、ということ、生活を愛でることができるような場所になっていくこと」、そしてこの先に4-5Fに自身の表現を深めたり、地域とつながったりしたい方には、TAPのノウハウやいこいーのの場所を活用できるように伴走していきたい、というメッセージが伝えられました。
参加者の方からは、取手のまちの各所に、いままで知らなかった日常的な表現活動の場があることや、地域に対しての意識を持っている人の多さに対しての発見の声が寄せられました。そして、何をする?がそれぞれの暮らし手に委ねられている、「考える余地を残したこと」に共感する声がありました。

参加者のみなさんからいただいたフィードバック、それぞれのリアクション、今日見ていただいた諸々から生まれたアイディアの熱量に驚きました。
最後に小さい人たちのレポートをちょこっとご紹介します。

実は途中から天気が崩れるかもという予報でしたが、ぎりぎり雪にも雨にも大きくは降られずお天気にも感謝の1日でした。午後いっぱい、ご参加くださったツアー参加者のみなさま、協力くださったアーティストのみなさま、ありがとうございました!

・・・

ツアーの中でのみなさんの様子に、改めて今回取手井野団地にできた新しい4・5Fのこれからを考えました。
この新しい部屋に暮らす方々が、ご自身の活動や表現を、地域の人たち・新しいコミュニティの人たちとシェアする機会をもてるとしたら。
普段は公開されていなくても、取手井野団地の5Fに、それぞれの活動が日々営まれている部屋が点在している、と思い浮かべられることは、団地という生活空間や、このまちにとってとってもポジティブな変化なのではないだろうか、と思います。

今回のツアーは、TAPアートのある団地13年目、また新たなはじまりを実感する1日になりました。どんなかたが暮らすんだろう?そして一緒に活動できるかもしれない、少し先の未来に期待して、待ち遠しくニューカマーのみなさんをまっています!

 

UR都市機構 サービスフィールド付住宅についてはこちらでもご紹介されています

 

参加スタジオ・アーティストのインタビュー(ART LIVES TORIDE)

APどのう  https://artlivestoride.com/artist/apdonou.html
NULLNULLSTUDIO  https://artlivestoride.com/artist/nullnull-studio.html
井野アーティストヴィレッジ  https://artlivestoride.com/artist/iav.html
平井亨季  https://artlivestoride.com/artist/kokihirai.html

 

開催概要

UR都市機構・取手アートプロジェクトコラボレーション企画 アートのある郊外&団地の新しい暮らし探訪ツアー

イベント情報はこちら

日時
2024年1月13日(土)13:00-17:00
集合場所
取手駅西口改札前(JR常磐線・関東鉄道常総線「取手」駅)
参加費
無料
定員
先着15名

 

写真:サイトウ・ミラ・アヤナ(ツアー当日撮影)、UR都市機構(対象住戸写真)、取手アートプロジェクト(一部)

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