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令和3年度芸術家パートナーシップ事業 放課後アートの時間  イベント「おとなも放課後たいけんラボ」レポートvol.2

終了しました 2022/03/31


芸術家パートナーシップ事業 放課後アートの時間の活動を紹介し、令和3年度の1年間の
活動を振り返るイベント「おとなも放課後たいけんラボ」を2022.3.13に開催しました。その様子をお届けするレポートvol.2(後編)。
後編では、イベントのトーク後半に話された、普段は一緒に活動することのない芸術家と子どもたちが、どの様に一緒に活動したのか、一緒に活動する際に大切にしてきたことなど、本事業のを通じて見えてきたことをお伝えしていきます。

※イベント前半の様子を記載したvol.1(前編)の記事はこちらから

【おとなも放課後たいけんラボ イベント概要】

実施日時 2022年3月13日(日) 14:00-16:00
実施場所 たいけん美じゅつ場 ( アトレ取手4階 )
ゲスト 辻 政博(造形教育・美術家、元帝京大学教授)
ワークショップ実施芸術家 飯野哲心、河上薫、木俣創志
(いずれも令和3年度「放課後アートの時間」参加)
参加条件 参加無料・新型コロナウイルス感染症対策のため一部事前予約制
主催 取手市役所政策推進部文化芸術課
事業受託・運営 NPO法人取手アートプロジェクトオフィス
協力・放課後アートの時間ロゴデザイン あーと屋図工室(浅野純人)

※令和3年度芸術家パートナーシップ事業「放課後アートの時間」の活動の様子はこちらのレポートで紹介しています。

トーク後半の様子

本事業コーディネーター倉持美冴(以下、倉持):

ここから放課後子どもクラブで活動してきたことを、コーディネーターの浅野純人と本日のゲスト、辻さんと、そしてみなさんと一緒に振り返っていきたいと思います。浅野さんも放課後子どもクラブで活動して、子どもたちから芸術家が何かを得ていたり、再確認しているような場をたくさん見ていたのではないかと思うのですが。

本事業コーディネーター浅野純人(以下、浅野):
先ほど、辻先生からお話があったように、主体的に発信するというところですね。私たちはプログラムを用意して、コーディネーターが芸術家のみなさんから、活動のプランをお聞きした上で「それはちょっと難しいんじゃないですか」とか「もうちょっとこうしたほうが現実的じゃないですか?」という話をした上で、放課後子どもクラブに打ち合わせに行き、支援員さんたちとお話をして「ここのクラブではこれはいけそうだよ」とか「もうちょっとこうしたほうがいいんじゃない」というお話をしながら、子どもたちにアタックするわけですね。その中で、こちらとしてはこういう反応があるかな、など思いながらやるものの、やはりそううまくはいかないとか、思った以上にすごいものができてくるとか、そういったことが当然ながら起こってくるわけです。それがすごく面白いし、それに対して柔軟に対応できるという姿勢がやはり芸術家が持っている強さだと思っていて、そう言った反応が様々に見られるところが非常に面白かった。
この「放課後アートの時間」の特殊なところは、芸術家がただクラブに行って子どもと接する、それで終わり、じゃなくて、間に私たちコーディネーターがいるし、支援員さんたちがいらっしゃるし、いろんな大人が介してより子どもに対してどんな活動がぎゅっと入っていく「より良い」という言い方はしませんよ。「ぎゅっ」と子どもたちに浸透していくようなことを考えていくところが、特殊で面白いところかなと思っています。

倉持:辻さんからも、放課後に芸術家が活動していく面白さとか、もっとこういうのあるとまた面白くなるんじゃない?みたいなところがもしあれば聞かせてください。
辻:これは、うちの近所の公園なんですけど、全部禁止なんですよ。
木登りもダメだとか、ここは駐車場のところなんですが、「入ってはいけません!」とか、ここは僕が子どもの時、50年くらい前は空き地でね、ものすごいいい遊び場だったんですよ。そういうのは今ないんですよね。管理されちゃってね。都心は農家が遺産相続でどんどん旧来の家を売り飛ばして、緑がなくなってしまうので、緑の専有率が低くなってしまう。

行政がそういった雑木林をそのまま生かした公園をつくっていて、そこに行くと土があって、穴を掘ったりなどできるんですね。私が子どもの頃、最初の東京オリンピックの前くらい、1964年で四年生だったんですが、寄り道とか原っぱとか管理されない空間というのがそれぞれあって、学校では原理的なものを習い、帰りに寄り道をした。昔は、今みたいに学習時間数が多くなかったですから。今は学習時間が、すごく多い。みんな6時間目くらいまであるので、放課後もないんですよね。でも僕たちの頃はゆるかったので、寄り道したり、原っぱに行ったり、管理されていない時間や空間がいっぱいあって、子どもとしての時間が、自動的に紡がれていたような社会構造だった。今っていうのはもう完全に全てシステムが行き届いているので、意図的に子どもが自分で何かできるような空間をつくっていくのがすごく大事かなと思います。
放課後の時間に、原理的なことを教えたら学校と同じですよね。そうじゃなくて、放課後の時間に他者と触れ合ったり、社会とか世界に触れ合ったり、もしかしたら自分自身に触れ合ったりするような時空間をアートを通して、アートが一番そこに接近するためのアプローチとしてはすごい存在理由があり、有効だと思います。そういうもので今の社会構造の中に子どもの時間を生み出していく。この活動ってそうだと思うんですよね。すごく大事なものかなって思います。
そして、学校教育とは違うシステムをつくり出しているんですよね。これはすごい大事で、いろんな局面で、子どもたちに働きかけながら、子ども自身で多様な価値とか視点とかコミュニケーション能力っていうのを育みながら豊かな市民社会が形成されていくんじゃないかと思うんですよ。
浅野: ありがとうございます。子どもたちにとっては、6時間目くらいまで授業したあとの放課後であり、かつ集団登校・集団下校だったり、放課後子どもクラブ利用者だったら保護者の人が迎えにきます。家から学校までの間に余白がないんですよね。もう「この道通って行きなさい」って道外れちゃだめだし、あんまりゆっくり歩いてると心配されちゃったりとか、する訳ですよね。そこに芸術家が絡んだ放課後の時間は、参加する・しないは、絶対ではない。参加したい人は参加していいし、参加したくない人はマンガ読んでてもいいよ、と押し付けないっていう形です。
そして、取手市の方からも「この事業では成果を求めていない」ということなんですね。成果というのは「作品が完成すること」とか、音楽家の方なら「演奏会ができる」みたいな。授業の場合、作品ができない、演奏ができないと評価できないといった話になりますけれども、私たちは授業じゃない。同じ取手市にいるいろんな価値観を持った大人たちが芸術家という「ちょっと何?」って人たちがやってきて、そこへそれぞれの活動を持ち込んで「あっこんな大人もいるんだ」「こういう価値観もあるんだ」そういうことを感じてもらって、その人の人生を少し垣間見てもらえたらな、というところが大きいので、今を生きていく子どもたちの中に、少しこう「ブレさせる」と言いますかね。そういうようなことができているのかな、と思っています。

倉持:ここで、この「放課後アートの時間」に参加して一緒に活動していた芸術家も会場に来て下さっているので、芸術家として参加して感じたこと、現場でこんなことがあったなどお話しが聞けたら嬉しいなと思います。星善之さん、お願いします。

星善之:先ほど活動紹介の画面上でも紹介していただいたんですけれども、テンコウセイになって子どもたちの中に入り込むのと、みんなに動物になりきってもらい、言葉を一旦取り外して身体を通じて新しい発見がないかというチャレンジした取り組みをしました。僕自身は演劇をメインに活動していて上演作品をつくるとことが仕事なんでが、放課後子どもクラブの様な場で仕事をしたことがあんまりなくて、自分がワークなどで積んできたことや、やったことがない新しい取り組みを、ある意味子どもたちと一緒に遊びながら、遊びを通じて、「あっこれってこういうことになっていくんだ」というような発見をさせていただいたなと感じています。
先ほど、辻さんが仰っていた中にもあったんですけれども、
芸術家が「能力を分け与える」のではなくて、芸術家がむしろいろんなものを吸収できる場になっていたな、ということを僕自身は感じています。僕自分の事業だけじゃなくて他の芸術家のサポートスタッフとしても何度が活動に入らせていただいたんですけれども、どの現場でもそういったところの、対話だったり、活動が終わったあとの意見交換も通じて一回りも二回りも成長していくのは子どもだけじゃなくて大人もだなというのは感じていました。むしろ、そっちの方がすごく重要なのかもしれないなということも、このプログラムで学んだところであります。

浅野:星さんありがとうございます。この活動ですね、コーディネーターの他に、芸術家の方とサポートスタッフの方が活動に毎回同行してくださって、それは筑波大学の学生さんだったり、藝大の学生さんだったり、取手市民の方だったり色々な方がサポートスタッフとして活動に参加していました。芸術家として参加している人の中にも何人かの方が、サポートスタッフとして参加してくださって、活動の幅がより一層広がったかなと思っています。あと本事業はコロナ禍で活動の機会が減少してしまった芸術家を支援するという目的もありますので、芸術家がこの活動を通じて、今後自分達が生きていく糧をより強くしていく、そういった側面もあると思っています。なので今、星さんが仰ってくださったように、そういった活動に参加することで今後「ワークショップをどうやったら組み立てていけるかな」「どうやってアプローチをすると子どもと接していけるかな」そういうところをそれぞれの芸術家の皆さんが得てくださったならば、すごく意味のあることだったのかなと思います。

倉持:そうですね。芸術家と、クラブを支えている支援員のみなさんと、そして現場に入るサポートスタッフ、そしてコーディネーターが、一緒に伴走していく。ひとつのチームをつくることで、子どもたちと一緒に活動して、そのチーム全体が、それぞれ得るものがあると感じました。辻さんから客観的な視点で、その運営メンバーの構成などについてもお聞きできたらと思います。

辻:ちょっと「放課後アートの時間」の、構造みたいなものを洗い出してみたんですね。まず「こういうふうに育ってほしいな」といった願いみたいなのがありますよね。そして子どもがいて、芸術家がいて、支援員さんとかサポートスタッフがいて、コーディネーターの方がいる。これは、人員的な要素ですよね。そしてお互いに関係をどの様にとって、この願いに迫っていくかを考えていくわけです。さらに具体的なプログラムを成立させていくとですね、願いを目標に落とし込んでいったり、題材などそこでどんなプログラムを子どもたちがやるのか、どんなことをしていったらいいのかなど、そして(放課後子どもクラブという)環境の話も先ほど出ていましたけれど、時間とか場所の制約とかいろんな要素が入ってきますよね。
それから、どんなふうにして子どもたちに具体的なプログラムを示していくかという戦略ですよね。例えば、レポートにありました、過去の参加芸術家による「触覚」を活かした活動では、背中に文字を書いていました。あれも一つの戦略ですよね。「触覚を使って描け」ではなくて「友達の背中に文字書いてごらん」と伝えると、触覚を感じますよね。そのように、どのようにプログラムを実施していくかというのは、それぞれ戦略が違うと思うんですよね。さまざまな要素と人為的な要素がお互い複雑に絡み合ってですね、個々のプログラムが成立してるんだと。
さらに、行政の方とか、あと保護者とか市民とかそういう方たちの考えも入ってきて、
すごく複雑なプロジェクトを上手く運営されているのにはびっくりしますね。この複雑な要素をうまくバランスをとってやってってるんだなというのが、このプロジェクトの概要をみた時の実感でした。単純じゃなくて複雑な営みなんだなと。要素を書き出したとすると、芸術家は子どもをどのように捉えていたのか。芸術家はどのように活動していたのか。ある芸術家は他の芸術家とどのような相違点や関わりがあったのか。支援員さんとどういう関係があったのか。そして、コーディネーターは、このプロジェクトのおへそのような、プロジェクト全体を陰で統括しているすごい重要な役割を担っています。学校だと教師がいるので、コーディネーターのような役職はないんですよね。すごい微妙なバランスの中で運営していく時のコーディネーターの役割っていうのはすごく大きいプログラムなんだなと思いました。

倉持:ありがとうございます。芸術家と放課後子どもクラブがパートナーシップを組んで活動している中で必要なことだったり、こういった複雑な絡み合っているというところを、今日辻さんからその言葉を聞くことができて、俯瞰してみることができました。トークセッションで会場からのご意見もいただきたかったところなのですが、定刻を過ぎてしまい、今日のこのトークの場は終了したいと思います。本当にみなさん長い間ありがとうございました。

辻:ありがとうございました。
浅野:ありがとうございました。

ゲストプロフィール
辻政博(造形教育・美術家、元帝京大学教授)

小学校で図工教師を務めた後、大学で教員養成に携わる。図画工作科教科書(日本文教出版)著者代表、NHKEテレ「キミなら何つくる?」番組委員、カンボジア王国芸術プログラムアドバイザリー・グループ委員、東京都図画工作研究会会長などを歴任。子どもが楽しく創造的に活動できるアートのあり方を模索している。

編 集:放課後アートの時間コーディネーター 小野寺茜、樫村宙子、倉持美冴
イベント写真撮影:古田七海
※無断転載・複製を禁ず。

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